2020年5月8日厚生労働省記者会見

2020年5月8日厚生労働省記者会見

国公一般書記長の大門と申します。本日はお集まりいただき、ありがとうございます。まず資料ですが、二部ありまして、ひとつが国立ハンセン病資料館の運営等にかかる公開質問状、もうひとつが不当労働行為救済命令申立書(東京都労働委員会宛)となっています。

申立書の日付を見ていただくとわかると思いますが、本日(5月8日)の午前中11時半に申立書を東京都の労働委員会に提出して参りました。内容は、これから委員長にも説明してもらいますが、いま真ん中に座っている2人が、3月末をもって不当に雇い止めされたということで、それが組合潰しを狙った不当労働行為ということで、申し立てをしています。

ここに至る経緯について、まず執行委員長の川村から説明をさせていただきたいと思います。

(川村)
国公一般・執行委員長、川村です。3月9日、3月30日にも記者会見を開きまして、国立ハンセン病資料館における委託者の交代に関わって、当初から雇用問題が発生するのではないか、発生させないように、ということで厚生労働省(以下、厚労省)に対して要請をし、その内容等について、皆さんにも広報させていただきました。3月に入った時点で、笹川保健財団によって面接がおこなわれ、その結果として2人は不採用となり、雇用問題が発生することとなりました。

(この事実を受けてあらためて)厚労省に要請をし、30日に記者会見を開いたわけですが、その際にも記者の皆さんから「今後は裁判、あるいは労働委員会等への提起はどうするのか」といった質問をいただきました。

先ほど大門書記長からも申し上げましたように、本日午前11時半過ぎに東京都労働委員会に対して、不当労働行為救済の申し立てをおこないました。具体的な内容については、後ほど弁護士の今泉先生にお話いただくとして、この間、私どもも笹川保健財団に対して、雇用問題を発生させるなということも含め──今、資料館にも組合員がいますから──労働条件の改善を求めて団体交渉を早期に(お願いしたい)と伝えています。

ところがこういうご時世でして、面談での交渉は難しいということを向こうからも指摘されまして、Zoomによる交渉を4月15日に開催いたしました。当然、私どもとしては雇用問題に関わる問題だということを議題にし、申し入れているんですが、笹川保健財団は使用者でないということで、一切この点について明らかにしないと申しますか、回答を拒否するという姿勢に終始をしました。

それに留まらず、今後の資料館の運営をどうしていくのかといった改善の問題、(雇い止めによって)欠員が生じているわけですから、そのあたりの問題も含めて追求をしても、「それが組合員の労働条件と、どう関わりがあるのか」という形で協議に応じない。労働条件の担当事項ということに絞り込んでくる形で先方の代理人、弁護士は、頑なな姿勢に終始しました。

とりつく島もないと申しましょうか、まったく話にならないということで、当初予定していた2時間の交渉も1時間で終わったと。そういった経緯を踏まえて、お手元にある「国立ハンセン病資料館の運営等にかかる公開質問状」を出すにいたりました。


(写真/黒﨑 彰 以下同 禁無断転載)

国の大事な事業であるハンセン病資料館を運営していくにあたって、どういう姿勢で臨んでいくのか。欠員が生じているといっても単に人が足らないわけではなく、稲葉さんは18年、Aさんは3年半余にわたって勤めてきた経験ある学芸員です。資料管理、啓発のための企画についても主体的に関わってきているベテランであって、専門性のある方です。

そういう人を(現場から)外して、どうやって運営していくんですかと。たまたまこの時期ですから、新型コロナの関係でハンセン病資料館は臨時休館となっています。ですが、緊急事態宣言が緩和されて資料館をオープンするとなったときには、あたらしい企画を進めなければならない。当然、人が足らないという問題が生じてきます。その点も含めて、私たちはこれからも追求していきたいと思っています。

ひとつ皆さんに強調しておきたいのは、日本財団と笹川保健財団の関係です。日本財団は笹川良一さんが立ち上げた財団で、笹川保健財団はその日本財団の下でつくられています。財団としては親子関係にあると言っていいと思います。ハンセン病資料館の受託を巡っても同様でして、入札にあたって厚労省は、技術提案書というものの提出を求めるわけです。「国立ハンセン病資料館等の運営と啓発広報一式仕様書」というものがありまして、これは「これに基づいて運営をします」という仕様書です。これに基づいて技術提案書を出しなさいと言われる。

ここに昨年度の入札において日本財団が示した技術提案書、そして今年度の入札に際して笹川保健財団が出してきた技術提案書があります。内容は基本的に一緒です。どこが一緒かと言いますと──本来はこうした重箱の隅をつつくようなことは好むところではないんですが、しかし今回は日本財団と笹川保健財団の関係を明らかにするためなので、ご説明しますと──各ページに並んでいる項目なども含め、まったく同じです。たとえば16ページに「情報提供検索システムの拡充」という項目がありますが、ここに「補充された欠本は電子データー化(pdf化)します」という表現が出てきます。化という表現が重複していて、明らかに誤植であるわけですが、日本財団の仕様書にある誤植が、笹川保健財団の書類にもそのまま存在しているんですね。

何が言いたいかと言いますと、日本財団がつくった技術提案書のデータを元にして、そこに笹川保健財団が必要な要素を書き加え、あるいは修正してつくられた技術仕様書であるということです。厚労省の入札にあたって、こうしたことがふさわしいのか。この点も第1回の団体交渉のなかで指摘をしましたが、これについても「今初めて指摘されたので、持ち帰ります」ということになり、これについてもその後一切、回答はありません。

この一点をもってしても──まあ、それ以外にもいろいろありますけれども──日本財団の下で職場環境をよくする、ハラスメントをなくすために労働組合をつくり、団体交渉もおこなってきた組合員、しかも組合活動の中心的メンバーである2人を今回、笹川保健財団に委託替えをすることを口実として排除したというのが、私どもの認識であり、また事実だと思っているところです。私の方からは以上です。

(大門)
今、川村からもありましたように、不当労働行為救済命令申立書にも書いてありますが、日本財団と笹川保健財団の同一性、これが今回、かなり重要なポイントであると思います。この申立書について、担当弁護士の今泉義竜(いまいずみ・よしたつ)先生に同席いただいておりますので、法律的な観点も含めて、ご説明をさせていただきたく思います。

(今泉)
弁護士の今泉です。代理人をやっております。私と、小部正治(こべ・まさはる)弁護士、2人の弁護士で担当しておりまして、申立書について説明していきたいと思います。

請求する内容としては、今日来ていらっしゃる稲葉さんともう1人、女性の学芸員Aさん、この2名について、雇い止めを撤回してきちんと職場に戻せという中身で申し立てをしております。3ページに救済を求める理由を書いていますが、先ほども川村さんからありましたように、日本財団に委託されていたハンセン病資料館で長年学芸員をして働いていた稲葉さんたちが、労働組合をつくったところ、笹川保健財団に委託替えをすることを口実に、2人を職場から排除した。そういう事案となっています。

以下、国立ハンセン病資料館とは、ハンセン病資料館における学芸員は何をしているのか、といった基本的な説明となっていますので、ここの説明は割愛させていただきます。5ページですが、2人は学芸員として働いてこられましたが、ハンセン病資料館の学芸員数というのは、年々増えてきています。最初は2002年に2名を採用、2019年時点では9名となっています。

学芸員の雇用についても、委託先というのは日本財団以前にも何度か変わっていますが、基本的に学芸員の雇用はそのまま継承されてきました。今までいろんな法人が関わっているんですが、基本的には雇用はずっと引き継がれてきたという経緯が書いてあります。

6ページに行っていただいて、当事者ということで、今回の被申立人は、日本財団と笹川保健財団の両方を相手にしています。

それぞれの財団の沿革については、ここに書いてあるとおりですので、割愛させていただきますが、基本的には笹川良一さんが立ち上げていて、組織的にはかなり近接といいますか、一体として運営されてきたような団体だと、こちらとしては考えております。6ページの一番下の(3)から国立ハンセン病資料館の運営主体の変遷について、という項目がありますが、ここには日本財団に至るまでの委託先、厚労省からの委託先がこのように変遷していったという事実が書かれております。委託先としては日本財団が4つめ、笹川保健財団が5つめです。今年の4月から委託先が笹川保健財団になったということになっております。

7ページの下、申立人について、国公一般の紹介等が書いてありますが、ここは割愛させていただいて、国公一般のハンセン病資料館分会というのは、今回雇い止めされた、この2人が中心になって設立されたわけですが、この概要については8ページの(2)に書いてあります。ハンセン病資料等の運営には雇用されている労働者が学芸員含めていろいろいるわけですが、いずれも単年度ということで、雇用が非常に不安定であったり、労働者の声を反映させる場がないということで、職場環境が非常に悪かったわけです。

そういった状況を改善していこうということで、2019年9月に国立ハンセン病資料館分会が3名で結成されました。ところが今回の解雇、雇い止めによって分会の中心的な2人がいなくなってしまったわけです。

8ページの3、稲葉さんとAさんの経歴について書いてあります。2人とも非常に専門的な知識と経験をもってこられた方だということが、よくわかりますが、ここも長いので割愛させていただきます。

とりわけ稲葉さんはハンセン病資料館を18年間にわたって支えてきたわけで、専門的な知識と経験を有していらっしゃる方です。Aさんは勤続自体は稲葉さんほど長くはありませんが、お子さん向けの企画などを成功させるなど、非常に貢献されてきました。そういったことが書かれています。

10ページの第3、日本財団による運営ということで、日本財団は2016年の4月からハンセン病資料館の運営を開始しているわけですが、2の横行するハラスメント、日本財団運営のもとでハラスメントが起きてきました。ひとつは平沢さんという方、この方は回復者で語り部もなさっている方ですが、稲葉さんに対してハラスメント的なことをしてきています。このことに関して、館長にやめてもらうよう対応してほしいと求めたんですが、我慢しろということで対応されなかったと。日本財団内にあるハラスメント委員会に申し立てをしても非常に対応が遅く、結果的に対応がなされなかったという経緯があります。

11ページの(2)ですが、成田館長もハラスメントが多いということで、ここに書かれているような言動ですとか、とくにAさんに対してはセクシャルハラスメントの事実もあったということです。このような職場環境はやはり改善していかなければならないということで、組合が結成されたと、先ほどご説明した経緯につながっていくわけです。

第4が組合結成の経緯ということで、この2人の被害以外にも、全国にある施設で日本財団に雇用されている職員の雇用関係の問題が、いろいろと起きていたので、それも含めて解決していこうということで、分会ができたという経緯が11ページから12ページにかけて書いてあります。

ただ12ページの2にもありますように、組合を結成してもハラスメントがおさまることはなく、むしろエスカレートしていったということが、このア〜キ(計7項目)までの間に書いてあります。細かいことはいろいろありますので、ここは割愛させていただきますが、管理職からのさまざまな嫌がらせのようなことがあったり、仕事を取り上げられるといったことがあったりしまして、団体交渉の席でも日本財団側はハラスメントの事実はない、という態度に終始したという状況がありました。

14ページに行っていただくと、ここで運営法人の形式的交代ということが問題になってくるわけですが、これ自体も、かなり直前になって組合に伝えられました。今年(2020年)に入ってから来年度は日本財団が応札しないことになったということで、笹川保健財団に受託を依頼した、という形で交代が伝えられました。

4月1日に運営主体が変わったわけですが、組織体制としては、なんら変わっていないというのが実態です。これについては15ページの2に書いてあります。館長、事務局長、もともと日本財団から出向していた方も含めて、基本的な組織体制は変わらずに、稲葉さんとAさんだけが排除されました。みずから退職された方が1人いましたが、本人の意思に反して職場から排除されたのは組合員だけという、非常に異常な状況になっております。

15ページの3で日本財団と笹川保健財団が実質的に一体であるということを書いております。これについては書いてあるとおりですので、割愛させていただいて、基本的には(ふたつの財団は)一心同体と言っていいだろうと考えています。人事交流もありますし、資金的にもかなり日本財団に依存した組織体制になっている。先ほど川村さんからもご指摘ありましたように、技術提案書についても日本財団のデータをそのまま引き継いでいるということで、形だけ法人格は違うけれども、実質的には一体であると考えています。

17ページで不当労働行為性について触れていますが、基本的には活発な組合活動、組合員2人がセクシャルハラスメントも含めたハラスメントを問題として団体交渉などで改善を求めていったということ自体が、日本財団、笹川保健財団にとって非常に目障りであったと。そういったことをうかがわせるような発言も、常務理事からあったりしたということが書かれています。

今年3月、笹川保健財団は採用試験をおこなったわけですが、この採用試験、受託替えにともなう採用試験というのは、初めておこなわれたわけです。これまで基本的には、受託団体が変わっても雇用は引き継がれるとされてきたわけですが、今回初めて試験がおこなわれ、2人だけが落とされるということがなされました。これだけの経歴と知識をもった2人だけを排除するというのは、まったく合理的な理由があるとは言えません。

笹川保健財団が2人を排除するために採用試験をおこない、実際落とすことで組合を潰そうとした、そういうことだろうとこちらとしては考えています。これは労働組合法の7条1の3号、組合員であることを理由にした不利益扱い、組合の弱体化を狙った支配介入であると、考えております。

こういうわけで本件について、都労委(東京都労働委員会)に不当労働行為について明らかにして、2人を早くもとの職場に戻していただきたい、と申し立てをおこないました。ハンセン病資料館という人権を守っていくための施設において、このようなことがあってはならない。早急に職場復帰を求め、組合と一緒に闘っていきたいと思っています。私からは以上です。

(大門)
以上が申立書の説明になります。審議がいつになるかについては新型コロナのこともあり、不透明ですが、裁判の方も確定ではありませんが視野に入れつつ闘っていくことになっています。その決意について、まず稲葉さんからお願いします。

(稲葉)
分会長をしております、稲葉と申します。今回の採用試験、雇い止めについては、不当なものであると思っています。笹川保健財団に対して、私が不採用になった理由を問い合わせましたが、それについても「理由は示さない」という回答をもらっているのみで、なぜ私が不採用になったのかについてさえ、いまだにはっきりわからないという状況が続いています。先ほどの説明にもありましたが、こうした採用試験というのは、今まで一度もありませんでした。

私は18年間ハンセン病資料館に勤めてきましたが、受託者が変わるたびに雇用に関する説明はありましたが、採用試験などは一度もありませんでした。今回、こういった問題(雇い止め)が初めて起きたのは、やはり私たちが労働組合をつくって改善を求めてきたことが非常に邪魔だったのだろう、そこに理由があったのだろうと思っています。

こうしたことは、明らかに不当労働行為だと思いますので、このまま黙っているわけにはいきません。不当解雇の撤回を求めて闘うことにした次第です。本日、都労委に申し立てをすることができました。どのような結論が出るのか、あるいは笹川保健財団がどのような対応をしていくのか、メディアの皆さんに引き続き、ご注目いただいて、私たちのことをご支援いただければと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします。

(A)
本日、ようやく都労委の方に申し立てができたということで、第一歩が踏み出せたのかなという気持ちでおります。我々は2019年9月に分会を設立しました。その理由については、申立書に書かれているとおりですが、これは実際にあったことの、ほんの一部です。ここに至るまでに「資料館は真っ当な組織であるのか」「国からの、厚労省からの委託を受けてハンセン病の元患者さんたちの名誉を回復していくに、ふさわしい組織であるのだろうか」といった、さまざまな不備を指摘してきました。

その不備ゆえに起こった、さまざまなハラスメントがありました。それをどうにかしようということで、ここにいる3名が最初に立ち上がって組合を作ったわけですが、それを今度は、組織にとって邪魔な存在であるということで、日本財団だけでなく、同じ職場で働いている同僚の学芸員までもが、財団に追随するような形で嫌がらせ、ハラスメントをしてきました。

申立書に書かれているのは、その本当に一例ですが、そういったハラスメントの究極の形として、稲葉と私が今回雇い止めになったわけです。非常にショックを受けていますし、この問題を労働問題として採り上げることはもちろんですが、人権を扱っているハンセン病資料館、人の人生を扱う、人権を人々に理解してもらう、社会啓発をしていく、そういった場所の内部で、このようなことが起こっていいのだろうか。そんな思いを強く持ちました。

このことを合わせて皆さまに知っていただきたいですし、このようなことは許されない、ということも今後広く訴えていきたいと思っています。

資料館には組合員も1名残っておりますし、今年度も運営されていくわけですが、今後どのようなことが起こるのか、このような組織で残った職員がどのように働いていけるのか、それに対しても非常に不安をもっています。繰り返しになりますが、皆さまの、より一層の注視をお願いできればと思います。

〈質疑応答〉

──組合員の方というのは資料館に稲葉さんたち以外にもいらっしゃるそうですが、2人だけが雇い止めになった理由として、どんなものが考えられますか。

(稲葉)
組合員は東京のハンセン病資料館には3人います。私たち2人と、そこにいる、もう1名です。全国各地にも社会交流会館という施設があり、そこに勤める学芸員が2人いますので、全部で5名ということになります。今回、私たち2人だけが不採用ということになりましたが、これは推測ですが、私は分会長、私とAさんが団体交渉の場で発言する機会も多く、普段仕事をしていくなかで上長に改善を求める機会が多かったこともあり、この2人を不採用にしたのではないかと思っています。

──団交など、やりとりをしていく場面で発言が多いので、言葉は悪いですが、財団側から目をつけられたというか、目だってしまったというか、そういう意味でしょうか。

(川村)
労働組合の運営を考えれば、おわかりいただけると思いますが、組合活動においては、やはり主体となる人がいるわけです。通常であれば分会長がそういった役割を担います。同時に分会長をサポートしながら、あくまでも物怖じせず物事を言っていくという人も必要です。この分会の場合はAさんがそうだったと言えるでしょう。もう1名の組合員は、非常におとなしいわけです。

仮に3人すべてを雇い止めにしてしまったら、これは明らかに組合潰しと思われる。そういったことを考えた上での、今回の結論だったんだろうと、私たちは思っています。これは当たらずとも遠からずといったところでしょう。

──平沢氏によるハラスメントという項目がありますが、具体的にどういったハラスメントだったのか、まずそれをお聞きしたいです。

(稲葉)
平沢さんからハラスメントを受けたのは、おもに私ですが、まず資料館に毎日のようにやってきて、私のことを悪く言う、ということが続きました。

──どんな悪口だったのでしょうか。

(稲葉)
仕事ができない、仕事をしない、ひどくなると、あいつは人間ではないとか、ドブネズミだとか。勝手に人を雇ったと言われたこともありました。

──それは連日あったということですか。

(稲葉)
ほぼ連日です。

──それをまわりの方にも言ってまわっていたということですか。

(稲葉)
そうですね。直接私に言うのではなくて、まわりの人を相手に、私に聞こえるように言うわけです。

──昔、平沢さんにお会いしたこともありますが、今おいくつになられたんですか。相当お年ですよね。

(稲葉)
92(歳)になられているはずです。

──92歳というと、成田館長も同じような年齢だと思います。新年度においても、また館長に就任するということですが、館長としての仕事は、現在どのようなものがあるんでしょうか。今年には93歳になるという高齢で、ちゃんと仕事ができているのか、という点に非常に疑問をもつのですが。

(稲葉)
仕事らしい仕事ができているとは、私は思いません。館長の仕事というのは、わりと幅が広いというか、漠としている部分もあります。「館を総理する」というような言われ方もよくしますけれども、たとえば、私が平沢さんからハラスメントを受けているので、なんとかしてください、と言った際の対処の仕方とか、そういったものも当然、館長の仕事のうちに含まれるわけです。資料館全体のコントロールに関わる話ですから。

そういうことが当時から、できてはいなかったですし、今現在、92歳の時点において、それができているとは到底言えないと思います。今、実際何をしているかというと、私もよくわからないのですが、資料館に来て、お気に入りの職員と話をして帰る、くらいのことしかしていないんじゃないかと思います。

申立書には書いていませんが、私と前の学芸部長、前任の事務局長、この3人が2018年に追放人事に遭っています。この人事も館長の指示でおこなわれたものですが、それも元をたどれば、館長に嘘を言った職員がいまして、それは「私と学芸部長、事務局長の3人が結託して、館長を追い落とそうとしている」というものでした。それを真に受けて、日本財団の幹部に館長が働きかけ、結果3人を異動させるにいたりました。ことの真偽の判断ですとか、何が適切なのかといった判断力に、もはや問題がある状態だと思います。

──成田館長は13年前の就任だと聞いていますが、就任当時で79歳ということになります。現在92歳という高齢にもかかわらず、またさらに館長職を継続して務めるという。この人事は誰が決めているんでしょうか。

(稲葉)
館長の人事は受託者と厚労省が相談することになっています。ただ、それとは別に全療協を含む、統一交渉団に諮ることになっています。ところが、この資料館の館長人事については2年前から全療協が交代を求めているにもかかわらず、その要求が通らず、今年度も成田館長が継続するという事態になっています。

──今回皆さんの件について、成田館長からのなんらかのコメントは出ているんでしょうか。<

(稲葉)
一切ないです。

──団体交渉のときも出てこない。

(稲葉)
出てきません。

──現状、資料館には組合員の方が3人(*資料館学芸員1名、全国の社会交流会館の学芸員2名)いるということですが、皆さんの雇用形態は契約社員という形になるのでしょうか。

(稲葉)
単年度雇用の嘱託職員です。

──稲葉さんは勤務して18年ということですが、労働契約法を使って、雇用5年を超えた段階で正社員になるという選択肢はなかったのでしょうか。

(稲葉)
日本財団に雇われてから4年になります。ですから無期転換逃れなのではないか、という疑いもあるわけです。5年目に入る前に受託団体を変えてしまおう、そうすれば正社員として雇用する義務も発生しないということですね。

──訴訟も含めて検討というお話がありましたが、どういった状況になったら民事訴訟が可能性として出てくるのでしょうか。

(今泉)
現在検討しているのは仮処分ですが、ご本人たちの生活もありますので、生活状況も踏まえた上で、今後の見通しを検討したいと思っています。今、新型コロナの関係で裁判所の業務も止まってしまっていますので、そこも含めての判断が先かなと思っています。

──雇い止めという形になって、しばらく経ちますが、現在どのような生活をされているのか、今後どのように生活の糧を得ていくのか、どのように考えていらっしゃいますか。

(稲葉)
今のところ、次の仕事を探すということはしていません。復職を求めていますので。雇用保険を申請するのと、あとは私たちを支援してくださる方々がいまして、その方たちがサポートをしてくださる、ということになっています。当面は私自身の蓄えで生活していこうかと考えていますが。

(A)
年度末で雇い止めされてから、ちょうと一ヵ月くらい経ちましたが、正直なところ、まだ受け止める余裕がないというのが実状です。今後の生活に関してましても、新型コロナといった時期的なこともあって、これから雇用がどうなっていくのか、まったく事情が見通せない状況となっています。

法的な制度を利用しながら、我々は復職を求めていますので、それに差し障りのない形で、なんとか生活をしていかなければならない。具体的には決まっていることはあまり多くないのですが、どうしていこうかと思案しているところです。

──東京都労働委員会の手続きについてですが、今後の大体のスケジュール感といいますか、そういったものは現状わかっているのでしょうか。

(今泉)
一般的に言うと、審査から1年くらいで命令までいくというのが普通ですが、第1回が一ヵ月後とか二ヶ月後くらいには入るんですが、ちょっとそれがどうなるか、まだ不明です。運が良ければ6月に入ると思いますが、ちょっとまだ見通しが立たない状態です。団体交渉なども並行しながらやっていくことになるだろうと思っています。

(川村)
じつは今日、申立をしたというのは、5月に労働委員会総会というのがありまして、それが来週の火曜日(5月12日)に予定をされていたんですね。そこで、それまでに出された案件についての枠組みがされて、いわゆる担当割りがされる。そこから審議に入っていくという話を確認しておりまして、それに向けて作業を進めてきたわけです。

ところが昨日、12日の総会が延期になったという情報が入ってきました。新型コロナにともなう緊急事態宣言を受けてのことですが、翌週に開かれるかどうかについては、来週あらためて検討されるということでした。とにかく労働委員会総会が開かれて、担当者の割り振りがされないことには、物事が前に進まない、そういう状況になっています。

──先日、笹川保健財団に質問をして、不採用の理由について聞いたんですが、やはり回答拒否でした。その際に「不採用にしたのは組合の2人だけではない」との話もありました。4月15日の団体交渉の際には、稲葉さんたち2人以外に不採用になった方についての説明などはあったのでしょうか。

(川村)
4月の15日に、そういったことも含めて確認をしたいという思いで団交に臨んだわけですが、冒頭申し上げましたように、この件については一切ノーコメント、回答しないということで、完全に門前払いという対応でした。いろいろな角度から検証したい、ということで話をしたんですが、一切回答しないという態度は変わりませんでした。

(稲葉)
もう1人不採用になった人がいますが、その方からも、いろいろとお話を聞いています。その方は、じつはもともと辞めるつもりだった、ということでした。笹川保健財団としては、私たち以外にも不採用にした人がいるのだから、組合員を狙い撃ちにしたわけではない、という説明をしていますが、もともと辞めるつもりだった方をわざわざ説得して、採用試験を受けさせているんです。

結果、その人のことも不採用にした。もともと辞めるつもりだったので、なんの問題もありません。ですから、これは出来レースといいますか、アリバイづくりのために受けさせたというのが、事実でしょう。それを除けば、やはり組合員の2人を狙い撃ちにしたことは明らかだと思います。

(大門)
申立書の15ページの2にも書いていますが、意に反して職場を追われたのは結局この2人だけ、ということです。先ほどの職探しについてですが、公開質問状の第一項目にも書いていますが、4月23日に笹川保健財団が学芸員募集を始めました。ということですので、稲葉さんとAさんは、まずこの学芸員募集に応募することになっています。