2022年5月10日厚生労働省記者会見

2022年5月10日厚生労働省記者会見

(丹羽)
昨日、国公一般が日本財団等と争っていた東京都労働委員会(以下、都労委)の命令書を受け取りましたので、その関係で記者会見を設けさせていただきました。まず、国公一般を代表して副委員長の大門より、ご挨拶させていただきます。

(大門)
国公一般、執行副委員長の大門と申します。本日は委員長がどうしても都合がつかないということで、本日は私が代行として対応させていただきたいと思います。詳細については、このあと弁護団の方から説明がありますので、私からは、この会見の主旨、これまでの経緯、命令の全般的な説明、こういったものをさせていただきたいと思っています。

今日の会見用資料のなかに「国立ハンセン病資料館不当労働行為事件・東京都労働委員会救済命令にあたっての声明(以下、声明)」というものが入っており、こちらに内容がよくまとまっています。詳しくは後ほどそちらをご覧ください。

この事案、すでにご存知の方も多いと思いますが、国立ハンセン病資料館(以下、ハンセン病資料館)で学芸員として働いていた稲葉さん、大久保さん、この2人が2020年3月末、不当に職場から排除されたことについて、国公一般が同年5月8日に都労委に対して救済申立をしていた事件です。約1年半ほどの審査と審問を経て、昨日命令が出されました。命令書の方も資料としてご用意しましたので、詳しくはそちらを見ていただければと思います。

まず主張についてですが、一部、私たちの主張が認められなかった部分もありましたが、内容的には私たちの要求が全面的に認められたものとなっています。私たち組合としては、今回の命令はとても画期的な内容になっていると考えています。

この事案は内容が少し複雑で、ここにいる2人が雇い止めされたときは、ハンセン病資料館の管理運営をしていたのは日本財団でした。その日本財団が3月31日で業務委託から手を引くことになり、そのあとを引き継いだのが笹川保健財団だったわけです。その際、笹川保健財団は今まで一度も実施されたことのなかった採用試験をおこない、その上でこの2人を不採用、という形で職場から排除しました。

大きな争点として、日本財団と笹川保健財団が組織として一体であるかどうか、という点がありました。私たちは両財団は事実上一体であり、言ってみればその関係を利用して表向きは不採用、実際には解雇したという立場に立って申立をしていましたが、今回都労委は両財団の一体性は認めておりません。

しかし今回の命令は、あらたな判断基準を設けた上で、この2人を救済しています。不採用の事案に対して不当労働行為があったと認めているわけで、そういった意味でかなり画期的な内容であったと思います。これについては、後ほど弁護団の方からもご説明をさせていただきます。

このような内容になったのは、都労委公益委員の方々が、財団のやり方はひどいと判断した結果ではないかと思います。財団の元にあった文書のなかには大久保さんを「酌婦」つまり売春婦、稲葉さんを「地蔵」と表記したものもあり、行動監視をした上、さらに差別的表現で嘲笑する、そういったことが、おこなわれていたことがわかっています。昨日、この件について私個人のTwitterのアカウントでTweetしましたところ、大変な反響がありまして、「財団への委託はやめるべきだ」という声も寄せられました。

私たち組合が財団にこれから求めたいことは、まずはこの命令を真摯に受け止め、不服申し立てをせずに命令を履行することです。これをなによりも求めたいと思います。この2人、職場から排除されて2年間が経っています。生活面でも大変厳しい状況で闘ってきました。いち早く職場復帰をさせてほしいと思っています。

笹川保健財団は、おこなっている活動、取り組み、本当に素晴らしいものがあると思います。ハンセン病問題への取り組みもそうですし、地域保健活動、あるいは国際的な医療派遣をするなど、私たち労働組合が求めているような多様性、一人ひとりを大切にする社会の実現に向けて、貢献なさっている部分も多くあると思っています。だからこそ、こういった違法行為、不当労働行為、人権侵害行為をいち早く是正してほしいと願っているわけです。

笹川保険財団宛には今朝(*5/10朝)国公一般からファクスを送り、不服申し立てをしないでほしい、いち早く命令を履行してください、と要請しましたし、つい先ほど、厚生労働省(以下、厚労省)の健康局難病対策課に対しても面談を申し入れまして、笹川保健財団に対し、都労委命令を誠実に履行する旨の指導等を求める要請もおこないました。組合としては、ただちにこの命令の履行義務を果たすよう、求めたいと思います。

今回の勝利命令ですが、報道関係の方々が事実に基づいた情報発信をしてくださったことも、大変大きかったと思っています。私たち組合も、あらためて深く感謝したいと思いますが、この闘いはまだまだこれからも続きます。ぜひ今回の記者会見をきっかけに、あらたな情報発信をしていただけたらと考えています。

(丹羽)
それでは昨日受け取りました命令書について、弁護団弁護士より、ご説明をさせていただきたいと思います。

(今泉)
代理人弁護士の今泉です。よろしくお願いします。まず本件を見るにあたっての基本的な考え方がどうなっているか、あまり知られていないと思いますので、その点をまずご説明したいと思います。お手元にある資料、声明の3をご覧ください。基本的には新規採用の場合、不採用は不当労働行為にはならない、採用は企業が自由におこなうものである、ということになっています。過去に三菱樹脂事件やJR採用拒否事件で、そのような最高裁判例が出ています。この判例自体、批判されているわけですが、一方で「特段の事情」があれば、(不採用も)不当労働行為になる、という判断も最高裁はしているわけです。

JR採用拒否事件、これは皆さまもご存知のとおり、国鉄がJRに変わる際、国労(*国鉄の労働組合)を潰す目的で組合員を不採用という形を借りて排除したという、国家的不当労働行為です。この件も労働委員会が救済したものを東京地裁、高裁、最高裁が引っくり返して、国の立場に立ったという最高裁判例があるわけですが、最高裁も全面的に労働者に不利な判断をしたわけではなく「特段の事情」があれば不当労働行為になりうる、と言っています。

この「特段の事情」がどういうものかについては、最高裁は何も言っていませんので、その後、いろいろな事例判断が積み重ねられているところです。これまで「特段の事例」が認められた例としては、京都のドリームアーク事件(事業譲渡の際の雇い入れ拒否事例)や東リ伊丹工場採用拒否事件(請負から派遣に切り替えた際の採用拒否事例)などがあります。

本件はその流れのなかで、採用にも不当労働行為にあたる場合があるのだという、先駆的意義をもつ判断であると思います。今までにあまり例のない事例でもあります。こうしたことを前提として、都労委の命令書を抜粋しながら、簡単に紹介していきたいと思います。

主文は1、2とありますが、ひとつめが笹川保健財団に対して、「不採用をなかったものとし、令和2年4月1日付けで採用したものとして取り扱わなければならない」とする命令、2はいわゆるポストノーティスと呼ばれるもので、陳謝の意をあらわすために2ページ以降に書いてある文書を命令書受領の日から1週間以内にハンセン病資料館の職員の見えやすい場所に10日間掲示せよ、という内容となっています。これは行政命令として、ごく一般的な内容です。

理由に入っていきますが、ここでは事案の説明を書いた上で、4ページから38ページあたりまでは、証拠に基づいて労働委員会は、こういう事実があったと認定する、という内容が、かなり詳細に書かれております。これについては逐一説明はしませんけれども、概要として組合結成に至る経緯、組合結成後にどんなことが起きたかといったことが認定されています。

ひとつ注目していただきたいのは、組合結成に至る経過でハラスメントが横行しているという職場の実態があり、とくに当時の館長が横暴な発言をしているという点です。これは9ページから11ページあたりにかけて書かれています。

大久保さんに対してどのような発言をしたですとか、資料館での訓示という形で館長が非常に乱暴な発言を職員に対しておこなった、といった事実も認定されています。これらは録音データもあり、証拠として全面的に認められています。詳しくは資料を読んでいただければと思いますが、きわめてひどい言葉づかいでハラスメントがおこなわれていたことがわかると思います。非常に強権的な発言をしたことが認定されておりまして、こうした流れのなかで分会結成に至ったというわけです。館内で人権侵害が横行しているなかで、やむにやまれず労働組合を結成した、そういう流れです。

組合結成以降、稲葉さんたちはハラスメントを中止すること、労基法違反の是正などを求めて、さまざまな活動を繰り広げていきました。正当な要求を次々としていたわけですが、日本財団はまともに対応しようとせず、まったく話が進まない状況が続きました。

19ページ、ここでは笹川保健財団が入札、受託が決定し、採用試験が実施された経緯が書かれています。採用試験の内容は適正試験、多面評価といったものでしたが、先ほどもありましたように、ハンセン病資料館の職員採用にあたり採用試験は今ままで一度もおこなわれたことがなかった、という点に注目していただきたいと思います。

ハンセン病資料館の学芸員は、専門性がきわめて高く、長年勤め、当事者の方とも深い関わりをもつ方が継続的に採用されてきました。専門性を考慮して、委託先が変わっても学芸員に関しては継続的に雇用されてきたわけです。

都労委がどういう法的判断をしたかについては、38ページ以降に書かれています。最初の方はお互いの主張を書いていますが、39ページからは日本財団と笹川保健財団の関係について書かれており、ここは本件のキーポイントになる部分です。

我々は両財団が一体であると主張していましたが、都労委は一体とまでは認めませんでした。39ページ(2)のア、最後の行には「きわめて密接な関係にあることがうかがわれる」ことを、財団設立の経緯、常務理事の人事、笹川保健財団が日本財団の助成金で成り立っていること、それも活動資金のほとんどが日本財団からのものである、などといった事実から認定しています。

続くイでは、次年度の応札検討依頼を日本財団が笹川保健財団に対しておこなっていること、厚労省に提出された技術提案書についても、基本的に日本財団から提供されたデータをそのままコピー・ペーストしたものであることが認定されています。この技術提案書については、誤字まで同じ状態のものが厚労省に提出しています。こうした事実を前提として、その後の判断がなされています。

41ページには組合と日本財団の関係について書かれています。これは日本財団における稲葉さんと大久保さんの置かれていた状況ということです。大久保さんは館内でハラスメントを受けていて、再発防止を要求し、その後組合結成、団体交渉をするに至りました。分会ニュースなども制作し配布しています。

ハンセン病療養所には全療協(全国ハンセン病療養所 入所者協議会)という当事者組織がありますが、その全療協も組合の要求が正当なものであることを前提に、日本財団のやり方がおかしいという点で意見が一致しています。この点について都労委は、「当時の日本財団においては、全療協との信頼関係回復が課題となっていたことがうかがわれる」と書いています。こうした状況下で全療協が発行する「全療協ニュース」に組合誕生のニュースが載ったり、記者会見の様子がしんぶん赤旗に掲載されたりしました。これについても「資料館等の運営への批判を広く外部に訴える組合らの活動は、日本財団にとって好ましくないものであったことがうかがわれ、特に全療協との信頼回復の妨げとなることを、日本財団が強く警戒していたことが推認される」と42ページにあります。

笹川保健財団の採用試験に関してですが、ここも非常に重要な部分です。初めておこなわれた採用試験で多面評価と適正試験がおこなわれましたが、多面評価というのは、従前に雇用されていた従業員間での相互評価です。パワハラや職場排除がおこなわれていた職場での相互評価ですので、組合員にとって不利なものになることが予想されたわけですが、さらにかなり恣意的な質問設定がなされたことがわかっています。通常50問でおこなわれる多面評価を9問だけにして評価するですとか、そういったことがありました。9問の質問内容も基本的にコミュニケーション能力に関するものに限られていまして、これはきわめて不自然であると言わざるを得ません。

これについても都労委は「従前の雇用関係において職場におけるハラスメントの中止などを求める組合活動を公然と行っていた稲葉及び大久保が低評価となる結果を得ようとする意図のあったことが疑われる」と認定しています。

45ページには「笹川保健財団は、日本財団の資料館の業務運営方針やノウハウ等を引き継いだとみることができ」る、そして「資料館運営への批判やハラスメント問題等を広く外部に訴える組合らの活動は、日本財団にとって好ましくないものであり、特に全療協との信頼関係の回復の妨げとなることを日本財団が強く警戒していた」とあります。それを受けて「笹川保健財団の採用試験における多面評価の実施方法や、採用試験総括表における稲葉及び大久保の不採用理由が極めて不自然であり、笹川保健財団は、日本財団から同人らの消極的な評価についての情報の提供を受けて、それも加味して採否の検討をしたことが疑われる」と述べています。基本的に日本財団からの示唆を受けて、笹川保健財団が不採用を決めたということを認定しているわけです。

先ほどありました防犯カメラの件につきましても、この審議のなかで明らかになりました。防犯カメラを職員に向けて多数設置し、なかでもとくに組合員3人、田代さん、稲葉さん、大久保さんを監視し、記録をつけていたことがわかりました。詳細は46ページに書かれているとおりですが、ハンセン病資料館は、この記録を警察にも提供しています。向こうの言い分としては稲葉さんが資料館から追い出される際に私物(*私費で購入した古銭)を持ち帰ったのが窃盗にあたるということで、警察署に被害届を出し、そのついでに田代さん、大久保さんの監視記録も警察に提出しています。こうした異常なことをやっているわけですが、これについても事実認定がなされております。

結論として「これらのことを総合的に考慮すると、稲葉及び大久保が分会を結成し、全国の国立ハンセン病療養所の入所者及びその自治会といった資料館の重要な関係先に対して、日本財団の資料館等の運営を批判する組合活動を行っていることを、笹川保健財団が、日本財団とほとんど一体となって警戒し、資料館の管理運営業務の受託に当たっての採用試験の不合格という形式を装い、同人らを資料館から排除したものといわざるを得ない」と述べておりまして、これは基本的にこちらの主張を全面的に認めたという内容になっています。

こちらとしては日本財団と笹川保健財団は一体であり、両方の財団に対して不当労働行為を認めよと主張してきたわけですが、今回の命令は笹川保健財団についての不当労働行為は認めたものの、日本財団については、雇い止めは職員全員に対してしているので、これは不当労働行為ではないという判断です。その点では一部負けていますが、基本的な内容はこちらが主張したことが、証拠も含めてほぼ採用されており、笹川保健財団の意図的な組合排除を認定したという点で、非常に画期的な内容であると考えています。

(小部)
代理人の小部でございます。20ページを見ていただきたいんですが、ここにきわめて珍しい記述があります。17)組合らによる記者会見等、という部分です。私たちは2年前の3月9日、この場所(厚労省記者クラブ会見場)で記者会見をおこないました。そのとき稲葉さん、大久保さん、田代さんがこういった発言をした、ということを都労委が認定してくれているんですね。さらに財団側がとんでもないことをしてくれたということで、資料館側が朝礼でしんぶん赤旗という媒体名を挙げて非難をした、ということまで認定されています。これは皆さま方の報道が「労働組合がきちんとした活動をしている」証拠として採り上げていただけたわけで、こういうことはあまり前例がないのかなと思っております。お礼を申し上げるとともに、今後ともよろしくお願いいたします。

お手元にある声明の内容について2点だけ補足させてください。ひとつは民間委託という制度、これがじつは労働上の大きな問題となっているということです。委託先を決めるにあたっては、ご承知のように入札と呼ばれる制度があって、一般的には、より安い金額を提示した法人に委託が決まることが多いです。つまり受注するためには、人件費を削らなければ入札に勝てない。労働条件をよくすると受託できないということになってくる。こういった構造があるために労働組合を嫌悪する傾向があります。

もうひとつは、民間委託において労働者は無期雇用でなく、一年から数年単位の有期雇用で雇われるということです。これがなにを意味するかと言いますと、春になると自分のクビが飛ぶかもしれないと、みんなが心配しなければなりませんし、ましてや受託する企業が入れ替わるということになれば、今回のように採用してもらえない可能性だって出てきます。きわめて不安定な雇用条件であるということです。

これは誰が悪いということではなく、このような仕組みそのもの、制度自体に問題があるわけです。民間委託によって労使関係が悪化し、労働組合が弾圧されるのは、決して特殊な事例ではありません。むしろどこでも起こりうることなんだということを、ぜひご理解いただければと思います。

つい最近、大阪の守口市で学童保育の職員15人を雇い止めにした事件が、金銭で和解に至りました。訴えた15名は職場には戻れませんでしたけれども、これも守口市が学童保育を共立メンテナンスという民間企業に委託し、会社が受託2年目に労働組合役員15名のクビを切ったという事件です。

じつは声をあげて闘える人はまだ幸せであって、多くの人たちは──先ほど今泉弁護士からもJRが国労組合員を不採用にし、最高裁もそれを認める判決をおこなったという話がありましたが──とても無理だと途中で諦めてしまうか、訴えることもなく、泣き寝入りして終わってしまうケースがほとんどです。国や地方自治体で働く非正規雇用の人たちは100万人を超えると言われています。その人たちが、こうした憂き目に遭う可能性があるという事実を、ぜひ知っていただきたいと思います。

ハンセン病資料館は国立の施設です。厚生労働省の傘下であるわけです。今私たちが記者会見している厚生労働省の厚(旧厚生省)というのは、ハンセン病問題という国家的人権侵害を起こした張本人で、私たちが暮らす社会で人権侵害があってはならない、と一番言わなければならない、そういう役割を担っている省庁です。そしてハンセン病資料館は人権侵害があってはならない、ということを長きにわたって発信し続ける施設です。その施設のなかでパワハラ、セクハラが横行している。これは今回の都労委の命令でも認定されました。人権侵害が、よりによって人権侵害があってはならないと発信すべき施設内で起き、それを放置してきた責任、これはどこをどう見ても監督官庁である厚労省にあると言わざるを得ません。

もうひとつ、厚労省の労(旧労働省)というのは、労働基本権を守る省庁であることを意味しています。その労働基本権を守るべき省庁の傘下にあたる施設が、不当労働行為で労働委員会から糾弾されるなんてことは、あってはならない。そういう意味で今回の件は二重の人権侵害であると言えます。

パワハラ、セクハラという人権侵害があり、その問題と闘おうとした人に対して労働基本権の侵害という、労働者にとってもっとも大事な権利の侵害があった。これが霞ヶ関のど真ん中にある省庁が直営する施設で起きていることです。こうしたケースは今では珍しいことではなくなってしまいましたが、構造的な問題として見ると、これほど恐ろしいものはないと思います。職場でのパワハラ、セクハラをなくすこと、労働基本権を守ること、これらはどちらも厚労省のお仕事なんですから。

そういった意味で今回の問題は、2人が可哀想だったということに留まらず、構造的な問題として私たち全員が捉え直さなければいけない課題だと思っています。

最後に日本財団について。私も街で日本財団の絵が描かれた福祉車両をよく目にします。社会貢献という意味では、長年にわたってよい仕事をされてきた。その日本財団グループが、こんなことをしていいのかと思いますし、誤りを認めて一日も早くこの問題を解決してほしいと思います。それは2人を職場に戻し、職場の環境を改善し、労働基本権をしっかりと守ることだと思います。

今回の事件を闘えた要因のひとつとして、国公一般という国家公務員が主体となった労働組合の組織があって、そこが動いてくれた、このことも大きかったと思います。弁護士のところに相談に来ても、結果が出るまで闘える人は少ないですし、その意味では今回は幸運でした。しかし、これで終わりというわけではありません。むしろこれからが始まりですので、2人が職場に復帰するまで、皆さまのご協力をお願いしたいと思います。ありがとうございました。

(丹羽)
それでは勝利命令を勝ち取った当事者のお2人からも、お話いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

(稲葉)
最初に、これまで報道等、この問題を採り上げてくださったメディアの方々に感謝を申し上げたいと思います。おかげさまをもちまして、今回都労委では、こちらの望む命令を勝ち取ることができました。ありがとうございました。私たちの望みは、職場に戻ることなのですが、職場に戻ってどうするのか、という点について、少しお話をさせていただきたいと思います。

元々ハンセン病資料館は入所者の方たちが自分たちで、手作りで作った博物館施設です。お金がないなかで、自分たちで資料を集め、施設の運営も自分たちで担い、そうやってやってきました。そのときに何をしたかったのかというと、自分たちが生き抜いてきた証をどうにか残したいということと、社会に同じ問題が繰り返されないように訴えかけたい、ということでやってきた博物館施設です。そこにあとから私たちが、国家賠償請求訴訟(以下、国賠訴訟)の結果を受けて学芸員として就職し、関わっていったわけです。

国賠訴訟を受けて、国の立場から過去の誤りについて保障をしようということになり、たとえば当事者の名誉回復をはかることが、ハンセン病資料館の目的に加わることになりました。しかし、私たち学芸員は国の言うことだけをやっていればいいかというと、そういうわけではありません。元々の設立の経緯、目的、こういったものを大事にしつつ、やっていかなければならないだろうと、ずっと思ってきました。

先ほど資料館のなかにパワハラ、セクハラ、あるいは劣悪な労働条件、こういったものがあるというお話がありましたが、このままこれらの問題を放っておくと、資料館の社会的な評価に関わりますし、資料館が立ちゆかなくなる危険性すらあると思っています。

それは入所者の人たちが必要があって自分たちで始めた資料館を、学芸員がいながら、守れなかったということにもなってしまいます。それはよくないだろうと思い、どうにか改善したいと思いましたが、いろいろやってみたものの、うまく進まない。そこで労働組合を作って改善を求めることにしました。それが今回の問題のそもそもの経緯です。

今回、復職命令を勝ち取って、職場に戻って何をしたいのか、ですが、私たちが排除される前に資料館の内部にはいくつもの問題があって、これは資料館の存続、あるいは社会的評価にとってよくないだろう、と心配していました。その問題は今もそのまま残っている、と私たちは思っています。戻って何をしたいかというと、まずはその改善の続きの仕事をしたいと思っています。

今回、都労委が復職させなさいという命令を出してくれましたので、ぜひこれを笹川保健財団には実行してもらいたいと強く思いますし、厚労省はハンセン病資料館を指導する立場にあるわけですから、受託者である笹川保健財団に対して、この命令を受け容れて履行しなさいと指導をするように、強く求めたいと思います。

小部先生がおっしゃったことと重なりますが、資料館から離れてしまった今も、資料館のことをずっと心配しています。これについては、ふたつ問題があると思っていて、ひとつは労働問題としての私たちに対する不当解雇、これが今回の命令が出ても無視されるようでしたら、結局この問題は放置され、改善されないということになってしまいます。もうひとつはハンセン病問題の解決を目指しているはずの施設──人権尊重を訴えている施設──で、都労委からの行政命令を無視し、放置するというようなことがあれば、これもハンセン病問題の解決に支障をきたす可能性が出てくる、ということです。

都労委の今回の命令は、このふたつの問題が、厚労省が所管しているハンセン病資料館という施設に今あって、それを解決するチャンスがやってきた、ということでもあると思います。ハンセン病資料館のためにも、あるいは厚労省のためにも、これ以上争うことなく、私たちを職場に戻す決定をしてほしいと思っています。今後、この命令で確定してきちんと履行するように、という働きかけをしていきたいと思っていますが、ぜひメディアの皆さまにもご協力をいただければ、ありがたく思います。よろしくお願いします。ありがとうございました。

(大久保)
ちょうど2年前の2020年の5月8日、私たちは国公一般国立ハンセン病資料館分会として、都労委に申し立てをおこないました。そして今、2年と1日の月日を経て、ようやく命令が発出されました。この間、非常に長くつらい時期を過ごしてきました。今回、私たちの訴えが多く採り入れられた、公正な命令が出されたことを本当にうれしく思います。

公正かつ画期的判断がなされた理由のひとつは、先ほど小部先生からもありましたように、早い段階からこの問題に着目、取材していただいたメディアの方々の報道にあったと思っています。また多くの市民の方々が、これは単なる不当解雇問題ではなく、私たちの問題、労働問題なんだ、そういった認識で応援してくださったことも大きな支えとなりました。また社会にとって、ハンセン病資料館とはどのような意味をもつ施設なんだろう、ということを、多くの方が考えてくださった。だからこその結果だと思っています。

私たちの職場復帰を求める署名、そして都労委に公正な命令発出を求める署名、とくに後者は短期間の間だったにも関わらず、非常に多くの署名をいただきました。署名は東京都だけでなく、全国13園の国立療養所に暮らすハンセン病回復者、そこでハンセン病問題に関わる人々、一般市民、そういった方々が、一筆一筆集めてくださいました。職場復帰を求める署名(*日本財団、笹川保健財団宛)は個人が約2万2300筆、団体が約380筆、そして公正な命令を求める署名(*都労委宛)は個人が約1万3700筆、団体が約870筆となり、これも今回の判断において大きな後押しになったと考えています。

まだこの命令を信じられない気持ちでいますが、命令が出たからといって、これで終わりではありません。この命令を財団が真摯に受け止めて履行し、あるべき資料館の姿を取りもどすことが、最終的な目標です。療養所に暮らす入所者は「可哀想な人々」ではありません。闘い続けてきて、その先に今日がある、そのことを自ら実践してきた人たちです。その人たちの系譜に私たちも連なることができるよう、今回の命令が履行されるまで闘いつづけます。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

〈質疑応答〉

──稲葉さんが先ほど資料館に復職したら改めたい、辞める前に心配していた点が今も残っている、それを改善したいと言っていましたが、それは具体的にどういった部分でしょうか。

(稲葉)
東京にあるハンセン病資料館のなかのことで言えば、今も組合員が1人、資料館に勤めていますけれども、依然として職場排除がおこなわれていると聞いています。これは私たちが辞めさせられる前、私たちに対しておこなわれていたことと、何ら変わっていないわけで、それも改めてもらいたいと思うことのひとつです。

全国各地の療養所内には社会交流館と呼ばれる博物館施設がありますが、そこにも学芸員がいるわけです。ですが、社会交流会館に勤める職員を雇っているのは、ハンセン病資料館の職員を雇っているのと同じ受託者──現在は笹川保健財団になりますが──が雇って現地に派遣するという形になっています。

社会交流会館で働いている人たちは、療養所の職員ではないけれども療養所内の施設で仕事をしているわけです。療養所内で働いているが、療養所の職員から指示を受ける立場にない。では笹川保健財団が具体的な指示をするかというと、そういうこともありません。端的に言えば、現場でなにか問題が起きたときに、誰がどのように責任を取ってくれるのか、まったくわからない状態です。

実際にそのような環境に置かれ、板挟みになってしまった結果、体調を崩して辞めていった職員も2人ほど知っています。このまま放っておいては、せっかくできたハンセン病資料館、社会交流会館が長続きしないのではないか、と心配させるような状況が続いているわけです。

あとは給与表がないですとか、評価の基準がはっきりしないですとか、働くための基本的なルールが存在しないことも大きな問題だと思っています。こうしたことを改善したいと思ったことも、組合を作った理由のひとつです。

こうしたことが、私たちが解雇されたあと改善されたかというと、そういうことはまったくありません。私たちは組合として団体交渉の席で笹川保健財団に改善を再三再四求めましたけれども、帰ってくる回答は、毎回「組合員の労働条件について話をするのが団体交渉であって、誰が組合員かを明かさないかぎり、話し合うことはできない」というものでした。

もし誰が組合員であるかを教えたら、今度はその人たちに、私たちが解雇されたときと同じようなこと(*パワハラ、セクハラ、職場排除)が起こらないとも限りません。これは支配介入だと思いますが、そういった状況が今も続いている。これも戻って改善したいことのひとつです。

──稲葉さんはハンセン病資料館最初の学芸員で、亡くなった山下道輔さん(*元ハンセン氏病図書館職員。故人)たちと、ひとつひとつ作り上げてきた資料館に対する思いは格別なものがあると思います。まだ闘い半ばですが、力を合わせて資料館を作ってきた先人の方たちに、この一報をどのように伝えたいと思われますか。

(稲葉)
山下道輔さんは、私も一緒に仕事はさせていただきましたが、そんなに深く関わる機会は多くありませんでした。私が関わったのは、むしろ高松宮記念ハンセン病資料館としてリニューアルされたあと、ずっと資料館を維持してきた佐川修さん(*多磨全生園入所者自治会・元会長。故人)、大竹章さん(*故人)、あるいは全療協の前の会長だった神美知宏さん(*故人)、そういった方々ですが、どなたも今会ったら、確実に「戻って続きをやれ」とおっしゃってくださると思います。その問いかけに対しては「必ず戻ります」と、お約束したいと思います。

──ハラスメントがあった職場に戻るのは、なかなか大変なことだと思いますが、他の学芸員さんたちに伝えたいこと、こうしてほしいと思うことはありますか。

(稲葉)
私たちが不当解雇撤回を求める署名を集め出した頃、一緒に働いていた学芸員から誹謗中傷がなされたことがありました。なぜそのようなことが起きてしまうのか、非常に複雑な思いです。自分が働いている場所(ハンセン病資料館)がどういう場所なのか、学芸員である自分がすべきことは何なのか、そういったことをもう一度考え直してもらえたらと思います。今回私たちに出た命令というのは、少なくともこちらが主張してきたことが事実として認定された、そういうものであるはずです。この事実をきちんと受け止めて、考え直してほしい。そう思います。

──先ほど小部弁護士からも笹川保健財団は長年よい活動もたくさんされてきた、というお話がありましたが、そのような財団が、なぜこのようなことをしてしまったのか、そのあたりについてはどうお考えでしょうか。

(小部)
まず笹川保健財団に受託団体が変わった理由ですが、日本財団の言い分としては、モーターボート競争法という法律があって、利益の使いかたには厳しい制約が設けられている。だからできないこともいろいろとある、そういう説明でした。先ほど稲葉さんが話した各地にある社会交流会館、ここで働く職員が体調を崩したり、精神的に問題を生じたりした際も、職員が現地に出かけていくようなことはできない。経費の使途として認められていないのだ、と言っているんですね。

それが本当なのかどうか、我々にはわかりませんが、結果的に彼らは資料館の入札から抜けていったわけです。その際に、もともとハンセン病問題に取り組んでいた「非常に密接な関係のある」笹川保健財団に任せますと、わざわざ明示した上で、入札に必要なすべてのお手伝いをした。とくに何もせずとも、そのまま引き継げる形をとったわけです。これは人事を見ても明らかです。職員は1~2名変わっていますが、中間管理職は全部同じです。これではカバーを変えただけではないか、と私たちは主張しています。

あとは私たちは社会的意義のある、大規模な財団なのだ、という自負もあったのではないでしょうか。ところが大規模な予算を動かしていくうちに、労働組合や事業を根幹を支えるロジスティクスの人たちに対する上から目線と言いますか、障害になるような存在は蹴散らしても構わない、というような考え方が生まれてきたのかもしれません。

不当解雇があった当時の館長は、今回の命令でパワハラ、セクハラの事実認定などもされていますが、すでに退任され、現在は人権問題を扱う施設にふさわしい館長に変わっています。これは厚労省もこのままではまずい、是正しなければと考えたからではないかと考えています。これはご存知でない方もいると思いますので、この場をお借りしてお伝えしておきたいと思います。   

──今回の命令を受けて1年ごとの契約更新をやめるべき、あるいは国の直轄にするべきという考え方もあると思いますが、そのあたりについてはどうお考えでしょうか。

(大門)
基本的には国立の資料館でありますし、人権啓発の場でもありますので、採算性や利益に左右されることなく運営されるのが一番いい状態であると思います。とするならば、やはり国の直轄で運営すべきと組合としては考えています。もしくは民間委託であったとしても、1年ごとの有期雇用は見直されるべき、というのが私たちの考えです。1年ごとの短期雇用では、かなり不安定な雇用形態と言わざるを得ませんし、資料館で働く学芸員も労働者であるわけですから、仮に民間委託するとしても委託のしかた、雇用の期限などについてもっと配慮があってよいと思っています。

たとえば形の上では単年度雇用であったとしても、今いる職員の雇用は基本的に引き継ぐことを大前提とする、といった制度作りですね。ハンセン病資料館の学芸員は、非常に高い専門性を求められる職業ですから、そういった点もきちんと踏まえた制度にすることが大事だと考えております。

先ほど財団がなぜ、このような事件を起こしてしまったのか、という質問がありましたが、私は彼らは彼らなりの理想があって、それにしたがって運営をしていると思うんですね。しかし、ここにいる稲葉さん、大久保さん、田代さんは、全療協や入所者の方の声を熱心に聞いて、親身になって活動している人たちで、財団はそういった親密な関係に非常に警戒心を抱いている。でも、それはおかしなことです。資料館運営を委託されている財団こそ、元患者さんたちの声を聞かなければいけないはずなのに、その姿勢に欠けていたのではないか、というのが私の意見です。

(稲葉)
資料館運営についての補足ですが、今年4月1日号の全療協ニュースに、自分たちで法人を持って資料館の受託を目指すことが組織決定されたという記事が載りました。それはつまり今の笹川保健財団や日本財団に資料館の運営を任せておいては不安だ、という意思表示であると思いますし、自分たちの資料館なのだから、自分たちで運営したいという気持ちの表明でもあると思います。

国の施設だから国が直轄で運営する方がいいのか、民間に出すと1年ごとの契約になってしまうから、複数年にすればいいのか、いろいろ意見があると思いますし、私自身もどうするのが一番いいのか、よくわからないところがあります。しかし全療協としては今回「自分たちの法人で運営したい」という意思表示をしたわけで、それは尊重すべきだろうと思っています。

──今回の都労委の命令は不当労働行為を認めたものですが、ハラスメント自体についてはとくに判断していないのでしょうか。

(今泉)
事実認定の部分でハラスメントと考えられるものについては、事実であったとして認定されています。財団側は認めないかもしれませんが、命令を確定させて、ハラスメントの問題も含めて是正させていく、というのが今後の組合の活動になると思います。

(小部)
都労委が笹川保健財団に対して命令しているのは主文の部分だけで、それ以外の部分で事実認定はしていますが、それはあくまでも都労委の見解であって、それを受け入れるかどうかは財団側の問題ということになります。解決できるという話になっても、その部分(*ハラスメント)まで含めて解決できるのか、今後解決をめざして交渉を続けていくのか、それはそのときの力関係によると思っています。

現在は2人を資料館に戻すことが大事で、今回の都労委の命令はそこについてのものです。ですから、復職を中心に取り組んでいくことになります。

──主文冒頭に「採用試験の不採用をなかったものとし、同人等を令和2年4月1日付けで採用したものとして取り扱わなければならない」とあります。不採用が無効であるという判断ですが、これは採用しなければならない、というところまで踏み込んだ命令だと考えてよいのでしょうか。

(小部)
裁判の場合には解雇が無効だとか有効だとか、あるいは不採用が違法だとか合法だとか、そういったことに対して判決を出すわけですが、労働委員会の命令は基本的に違法とか無効といった概念はありません。今回の命令も、あくまでも原状回復せよと言っているわけです。令和2年4月1日に採用したものとして取り扱う、ということは令和2年4月1日からの賃金を支払いなさい、合わせて元いた職場に復帰して仕事をさせなさい、主としてこの2つについて命令しています。

この主文に従うのであれば、バックペイ(*不当解雇されていた間の賃金)も支払わなければいけません。この命令はすでに確定し、労働委員会の会長が出している行政命令ですので、履行しなければいけないものです。しかし現在は多くの使用者が都労委の命令を守らず、地方裁判所や中労委に不服申し立てをして争い続けるケースも見受けられます。

その場合には「都労委の命令を守るように裁判所から言ってください」と、こちらから裁判所に申し入れ、裁判所が使用者に主文の履行を命令する「言及命令」という制度がありますので、次の段階としてはそこへ進むことが考えられます。

中労委への不服申し立ては命令発出から2週間と期限が決められています。都労委の段階で争いを是正して、それ以外の問題についてはまた別途組合と交渉しましょうということになるのか、命令内容に納得できないのでこれから何年もかけて争う、となるのかは、まだわかりません。そういった意味でも今後も皆さまからのご支援を、ぜひお願いしたいと思っています。本日はありがとうございました。