2020年3月9日厚生労働省記者会見

2020年3月9日厚生労働省記者会見

国家公務員一般労働組合で委員長をしています、川村と申します。国公一般については資料をお渡ししていますので、そちらを見ていただきたいと思いますが、国公労連(日本国家公務員労働組合連合会)傘下の労働組合であり、ひとりでも入ることができる組合です。私どもは昨年9月に国立ハンセン病資料館で、この3人を中心として分会を立ち上げました。結成趣意書もお渡ししていますけれども、結成の主旨につきましては、後ほどお話させていただきます。

日本財団が2016年4月から、この3月(2020年3月)まで受託をしてきましたが、来年度2020年度の入札には応札せず、笹川保健財団が応札をし、受託をするということになりました。受託者が変わるということがありまして、お手元にお配りしている、厚労省に対する要請書を本日10時に提出をし、要請をして参りました。本日は、この内容についてもお知らせをし、(資料館の抱える)問題について、ぜひ知っていただき、必要な対応をお願いしたいと思っております。

国立ハンセン病資料館は、博物館としても特異な存在でありまして、ハンセン病患者、回復者の方々の名誉を回復していく、そういう施設です。国の隔離政策によって、あるいは差別、偏見、排除によって、どんな生活を強いられてきたのか、こういったことを社会に対して明らかにし、差別、偏見をなくしていく、尊厳を回復していくという役割を担っているわけです。

受託者が変わっても、この点に変わりはないわけですが、私たちとしては、現に(資料館で)働いている方、この雇用をきちっと継承しなければ、その役割を果たせないという要請をいたしました。と同時に、単年度、一年ごとに入札がおこなわれるということ自体がもつ不合理性、こんなことをなぜ、毎年毎年繰り返さなければならないのか、といった点についても要請をして参りました。

厚労省、難病対策課の課長補佐に対応いただいたわけですけれども、要請は受け止めたということでした。とくに雇用問題に関してですが、これについては、3月6日付で笹川保健財団から送られてきた、各資料館、あるいは社会交流会館の職員宛ての採用募集通知もご用意しましたので、こちらもご覧いただければと思います。

なぜ、今回、採用試験をおこなわなければならないのか。しかも適性検査をおこなう。とくに問題だと思われるのは、多面評価をおこなうと書かれている点です。(多面評価とは)働いている者同士で評価をおこなうというものですが、これは労働組合を結成した大本となっている、資料館におけるハラスメントの問題にも関わってくる問題です。こういった形で一部の人間を排除しようとする行為があれば、これは由々しき問題であると考えています。

4月1日からの採用をおこなうとしていますが、職業安定法の労働条件の明示義務もまったく無視しています。人を募集する際には、労働をおこなう場所、労働時間、仕事の内容、賃金、すべて明示する義務があるわけですが、こういったものが一切あきらかにされていない。採用試験については、全国の社会交流会館などで働いている人たちからも続々と声が上がってきて、この通知を発信した国立ハンセン病資料館の事務局長に問い合わせをしましたが、それに対する答えは「私は日本財団の人間なので、笹川保健財団に聞いてほしい」という返答でした。

その後、昨日(3月8日)の12時過ぎに「労働条件については、募集をする際に、日本財団からの雇用契約書提供に同意する/同意しないを記入してもらい、同意していただいた方については、日本財団の雇用契約書の条件に準じるものとします。同意されなかった方については、採用試験、面接などをおこなった結果をもとに適切に判断し、決定します」と、まったく労働条件の明示にならないものを、またあらためて出してきています。

多面評価の問題点についても厚労省に要請をしましたが、そもそも組合を立ち上げた理由が、職員等からのハラスメントがあり、厚労省もこの件ではヒアリングをおこなって、一部職員の間で対立があったことは認めています。そういった問題が起こっている職場において多面評価をおこなうとすれば、個人的感情から、いろいろなことを言うでしょう。

そのような多面評価の結果をもとにして、採用から排除されるということになったら、これは問題ではないのか。そういうことが起こる可能性は否定できない、と申し上げましたが、その件に関しても可能性は認めつつも「受託者の裁量である」という発言に留まっています。

私どもとしては、これはまったく看過できません。ハンセン病資料館という、差別、偏見をなくしていく役割を担っている場で、こういうことが起きてくる、あるいはそういったことを可能にするような行為が(現在進行形で)おこなわれているということは、絶対に許すわけにはいかない。その思いをもって、本日の要請、会見をおこなうことにしましたし、今後、笹川保健財団に行き、この件について、公正、公平に対処するよう、要請をおこなう予定です。

採用試験をおこなうこと自体が問題だと思いますが、資料館機能を維持するためにも、現在いる人すべてを雇用してほしいと要請したいと思っています。

 


(写真/黒﨑 彰 以下同 禁無断転載)

〈組合設立の経緯について〉

(稲葉)
ハンセン病資料館の稲葉と申します。組合設立の経緯について、お話をさせていただきます。ハンセン病資料館においては2016年2月から、当時資料館の語り部であった回復者の方による、私への攻撃が始まりました。原因は、その回復者の方が希望する活動を、私が妨害しているとの讒言を、当館職員から吹き込まれ、それを信じたからでした。その回復者の方は、回復者であるために、館内での影響力も大きく、これに巻き込まれまいと過度に気を使う雰囲気が職員の間に広がりました。その回復者の方の攻撃を煽る職員に加え、これに乗じて職務放棄をする職員、自分のやりたいことだけをしようとする職員も現れて、職場の秩序は乱れました。

私は、この回復者の方のパワハラや名誉毀損を止めるように、館長や雇用者である日本財団に求めましたが、結果何もなされませんでした。それどころか、館長は、また別の日本財団の職員の讒言を信じ、2018年3月、当時学芸課長だった私と学芸部長、それから事務局長、この3人を排除しました。また館長は、気に入った女性学芸員にセクハラをおこない、思いつきで仕事をさせようとし、それを拒まれると、今度はパワハラをおこなうようになりました。

他の職員の前で気に入らない学芸員をののしり、全職員を前にした館長訓示では、やはり気に入らない学芸員を暗示しながら処分を明言し、独断かつ強権的な姿勢を誇示しました。こうした館長の姿勢を受け、それにただ盲従する職員、取り入って利用しようとする職員、これに乗じて気に入られていない学芸員を排除する職員もあらわれて、職場の秩序は崩壊しました。

私を含む3人の学芸員に対する排除やハラスメント、職場いじめは、2018年4月以降強まり、それ以外の5人の学芸員、事業部長、事務職員、館長によって、今日まで日常的に続けられています。また2018年3月の私と学芸部長、事務局長を排除した人事異動および組織改編が、一切事前の説明のないままおこなわれたことを受けて、国立ハンセン病療養所にある入所者自治会の全国組織である全療協も、ハンセン病資料館の受託者である日本財団に対し、説明を求めました。しかし日本財団はまともに取り合おうとせず、「自分たちがつくった資料館」と認識している全療協からの信頼を大きく失うこととなりました。

日本財団は、この状態を改善しようとすることのないまま、今日に至っているわけです。

組織規定、職務分掌表、事案決定規定、給与表などの仕事をする上で不可欠な仕組みも存在していませんが、日本財団は単年度の委託業務であることを理由に、一向に整備しようとはしてきませんでした。また、単年度の委託事業が博物館活動に馴染まないこと、職員の雇用を不安定にしていることなど、さまざまな場面で指摘されても、日本財団はその改善を委託者である厚労省に求めることもないまま、放置してきました。

一方、全国各地のハンセン病療養所にある社会交流会館等においては、2018年4月以降、1人から2人で勤務している学芸員に対する外部からの干渉や、職場内でのパワハラによる精神的な負担から病欠となり、さらには退職にまで至った事案が複数発生しました。各地の学芸員の雇用者は日本財団ですが、日本財団は、これらの事態に際して、困難に直面した学芸員を支援する有効な手立てを講じることはなく、退職するに任せました。業務に起因する病気の発症にも関わらず、公傷病ではなく私傷病による休職を勧める説明をしました。

また学芸員が立て替えた出張費や物品費の精算が半年から1年なされなかったり、勤怠管理表に記入された勤務時間が少なく修正されていたり、合理的な理由もなく出張が不承認になったり、精算書類が受理されなかったということもありました。こうした状態が少しずつでも改善されることを私たちは期待していましたし、個々に改善を求めてもきました。しかし一向に改善はされず、放置されているがために、むしろ事態は悪くなってきていると感じました。

このまま労働環境が悪化し続けると、職員が辞め、資料館や社会交流会館の正常な活動が滞り、社会的な信頼を失い、果ては館の存続自体が危うくなると、私たちは考えました。黙ってみている時期は過ぎたのだ、と判断し、2019年9月24日、労働組合を結成するに至りました。私たちは、私たちの意見や提案を有効かつ具体的に、それぞれの館のあり方や活動に反映させ、民主的で責任ある意思決定のプロセスを手に入れ、いくつかの館で見られる人権侵害の状態を解消し、健康かつ安心して働き続けられるようにすることを目指しています。その実現は、それぞれの館の設立目的や役割を堅持し、患者・回復者の尊厳を重視し、また意向を尊重しながら、社会にとって有意義な博物館施設であることにつながる、と考えています。

(A)
国立ハンセン病資料館、草津にあります重監房資料館、および各地のハンセン病療養所にあります社会交流会館、これらはいずれも大きなテーマのひとつとして、人権を扱っています。病と、それによって人権を侵害された人びとの歴史を次世代につなげていくという大きな役割があります。そのハンセン病資料館、重監房資料館、各療養所の社会交流会館において、職員に対して人権侵害がおこなわれている。こうした状況が数年の間、放置されている。そして、それを訴える手段として労働組合を結成したわけですけれども、これまで5回の団体交渉を重ねてきましたが、厚労省から受託されている日本財団から、誠意ある回答を得られたことは、ほとんどありません。

今回、笹川保健財団というところに受託が変わります。資料館は単年度の受託(契約)の上に成り立っているわけですが、日本財団の受託は現在4年目、このタイミングで笹川保健財団──日本財団から助成を受けている関連団体──に受託が変わるということは、我々の無期雇用「転換逃れ」にも該当する。そのような入札が、今回おこなわれたわけです。

博物館というところは、ハンセン病資料館だけに限ったことではなく、原則として昔のもの、今のものを次の世代に伝えていくという、長期的視野、社会的役割をもった施設です。そこにおいて、単年度の受託がされている。それも国民の労働を守るべき厚労省の管轄の下に、その状態がずっと繰り返されている。この状況は、やはり資料館という役割からいっても看過できることではないと思います。

昨今、大学の職員ですとか、地方の博物館、美術館、歴史館といった施設、もしくは図書館司書といった人たちにも非常に非正規雇用が増えています。我々も単年度契約の嘱託職員ということで、非正規職員です。これらが本当に日本の文化、社会的意義を次の世代に伝えていく役割を果たしていける、そういう環境にあるのだろうか、と考えるとき、これはハンセン病問題だけではなく、広く社会に今一度ご認識いただきたい。我々の活動が、こうした状況を変えていく一助になればと思っています。

 

〈質疑応答〉

──幹事社から質問です。(3月6日付の)要請ですが、解雇や雇い止めといったことはもう実際に生じていると考えてよいのでしょうか。生じているとすれば、何名程度の解雇、雇い止めなどが生じているのでしょうか。

(川村)
受託者が変わる際に、あたらしい受託者が、全員を今までどおりに雇用します、と言ってくだされば何も問題がないわけなんですが、先ほど申し上げたように──ある程度は想定はしていましたが──新規採用募集という形態を取ってきましたので、そういうことが起こりうると思っています。

その際に適性試験であるとか、多面評価といった要素を入れてきていますから、選別採用をおこなうぞ、という意思がそこにもあらわれていると思います。一方で、国立ハンセン病資料館等を含めて、欠員の募集をおこなっているんですね。草津の重監房資料館でも2名の募集をおこないましたし、多磨全生園でも社会交流会館を作るということで1名の学芸員募集をおこないましたが、応募者がないんです。

ハンセン病に対する関心が薄いとは思いませんけれども、学芸員資格をもって応募しようという人がいない。そういうもとで、今資料館で働いている人たちの雇用をそっくりそのまま継承せずに、仮に選別採用で排除したとすると、これは欠員が生じるわけです。こういった事態が果たして許されるのかと。こういったところを厚労省にも今問うてきたところですし、家族訴訟においても、本人、家族含めて、途方もない被害を受けてきたものを、国として責任をもって社会啓発をし、尊厳を回復していく。こういう役割を資料館は担っていて、その役割というのは従来にも増して高まっている。

そのなかで現在いる学芸員を排除して、あたらしい人は入ってこないという事態は、どう考えても認められるものではない。ということで、笹川保健財団にも再考を求めますし、厚労省にも監督責任を求めていきたいと思っています。

──この採用試験というのは、今雇用してらっしゃるハンセン病資料館の職員の方々は、全員受けるという前提になっているんでしょうか。

(川村)
希望者は応募しなさいということです。

(A)
働き続けたいのならば、希望して意思を表明しなさいということですが、意思を示さなければ採用されないということになります。

──団体交渉についてですが、今まで申し入れてきたけれども、なかなか誠意ある回答が得られないということでしたが、今後法的措置など、他の手段を考えていらっしゃるということはあるのでしょうか。たとえば第三者機関を通じて、もっと世の中に強く訴えていくとか。

(川村)
現時点における最大の問題は、雇用の継承と考えていますので、まずこの点を求めていこうと思っています。今年の3月で契約が切れますが、日本財団には各種ハラスメントの解消をもとめたものの、それに対する対応は十分になされていないという状況でありますから、4月以降についても、あらたな受託者である笹川保健財団にも対応を求めていくということです。

──(交渉の)継続は団体交渉で?

(川村)
そうです。この問題はそういった形で、現場において交渉協議をしていけば、解決する問題なのかなと考えていますから、そういったことをまずはやっていくということです。

──4年間日本財団が受託されていたということですが、日本財団の受託していた期間も1年ごとに入札がおこなわれてきたのでしょうか。4回入札があったとすると、それぞれ学芸員の方々は引き続き雇用、就労するために試験など、特段何かの手続きを取ったという過去の経緯はありますでしょうか。

(稲葉)
日本財団が過去4年、受託をしてきましたけれども、これは毎年、1年ごとの公募への応札ということで繰り返されてきました。我々も1年更新の雇用ということですけれども、その都度、何か試験をしたかというと(そういったことは)一度もありません。もっと言えば、私が学芸員として最初に採用された者なんですけれども、18年前ですか、そのときから数えて受託者は4社目、今回笹川保健財団になりますと5社目ということになります。その受託者の切り替わりのときに採用試験があったことも、一度もありません。

──18年前に採用されて、受託者は4社目にあたると。毎年毎年、雇用は更新されているということですが、たとえば昇給などは、どういう形になっているのでしょう。

(稲葉)
昇給はしてはいるのですが、給与表のようなものがないので、どういう形で進んでいるのかというのは、わからないです。

(A)
働くために最低限必要な仕組み、それ自体がない状態ですので。

──雇用契約書、有給休暇の定めなどについては。

(稲葉)
それはあります。ないのは、組織規定、職務分掌表、事案決定規定、職務権限規定、給与表、そのあたりです。

──日本財団と雇用関係にある職員は、全国で何人くらいいるのでしょうか。今回の訴えに何人くらいの人が該当するのか、どのくらいの規模感なのかということですが。

(A)
東京の国立ハンセン病資料館で嘱託が13名、委託、派遣が12名。その他にシルバー人材なども入っていますが、概算で25名ということになります。

群馬県草津にあります重監房資料館は、嘱託職員4名とパート1名の5名。全国にあります社会交流会館にいる学芸員が現在11名。ですから全国で40名前後の人が働いていることになります。そのうち日本財団と雇用関係にあるのは約30名です。

直接雇用という形で働いている人は1人もいません。日本財団から出向などで来ている人以外、資料館の現場で働く者は業務委託、パートの者か、我々のような嘱託職員という形になっています。

──全国に社会交流会館はいくつあるんでしょうか。

(稲葉)
奄美和光園は今作っているところで、多磨には社会交流会館はありません。社会交流会館は療養所の施設という位置づけですので、そういうカウントの仕方ですと(全国13園のうち)、11ヵ所ということになります。

(田代)
社会交流会館はあるけれども、学芸員のいない館もあります。

──日本財団が受託する前にはハラスメントなどあったのでしょうか。

(稲葉)
日本財団が受託する前は、私は(ハラスメントが)あるということは聞いていませんでした。もちろん2016年に日本財団が受託してすぐに始まったというわけではなくて、今回お話したような、ひどい状態になってきたというのは、2018年4月以降です。

──2018年4月以降、退職者も出てきたということですが、それは国立ハンセン病資料館での話でしょうか。

(稲葉)
国立ハンセン病資料館ではありませんが、地方の社会交流会館の学芸員が2人退職しています。

──その欠員の補充というのは、されているのでしょうか。

(稲葉)
今のところ、されていません。

──先ほどのお話に付随した質問ですが、給与表がないということは、手取り金額以外は、わからないということですか。

(稲葉)
給料明細はありますが、大体この年になったらいくらくらいになるというような一覧表(俸給表)がないので、昇給も金額としていくら上がったということしかわからないという状態です。

──ハラスメントとひと言でお話されていましたけれども、その中身というのは、どういったものなのでしょうか。

(稲葉)
先ほど申し上げた回復者の方、館長からのハラスメントについてですが、回復者の方がしていたのは、私のことを外に対して悪く言う。

──個人の人格の否定。

(稲葉)
そうです。館内でも、他の職員との間でそういった話を頻繁にするであるとか、館長からは「あいつと一緒に仕事をするな」といった発言があったりとかです。私は資料管理課というところで管理課長をしているんですが、この部署は私1人しかいません。そこで他の職員に対して館長が、私に資料を渡すなと指示したりということもありました。

──意味がわからない。

(稲葉)
それから職員同士、職員間については、事業課というところに課長を入れて5人の職員がいます。そのなかの2名は組合に参加しているこの2人ですが、残りの3人で(さまざまなことを)決めてしまって、この2名は会議に呼ばないですとか、あるいは、この2人が担当している仕事を、よその課に勝手に移してしまうというようなこともありました。

──館長さんというのは、日本財団から来ている人なのでしょうか。

(稲葉)
元々多磨全生園の園長だった方で、お医者さんです。我々と同じように前の受託者のときから館長になり、受託者が変わって以降も館長を続けています。日本財団の職員は、日本財団グループから出向してくる人を含めて5人。うち1人は定年で再雇用です。

──事務局長は日本財団の方ですか。

(稲葉)
そうです。

(川村)
館長はもう90?

(稲葉)
92、ですか。

(川村)
かなり高齢で、いろんな弊害も出つつあるという状況です。

──毎年入札ということですけれども、入札は公開、非公開?

(川村)
競争です。

──一般競争入札だと。その入札について、審査しているのは館長ですか。

(稲葉)
厚労省の評価委員会です。

──応札はだいたい1社しかない?

(稲葉)
昔、受託者であった、ふれあい福祉協会というところがありまして、私もそこに雇われていた時期があるんですが、ふれあい福祉協会が毎年、入札に手を挙げ続けているんですね。規模の小さい組織なので当然受託はできないわけですが、本当に受託する組織、プラスふれあい福祉協会が入札をしているので、形式上は複数社入札ということになります。

──形としては競争入札という建前になっているけれども、実際はそうではないと。

 

(A)
先ほどのハラスメントに関してですが、職場いじめ、排除以外にセクシャルハラスメントもありまして、これは私自身の話ですが、館長から館長室という人目のないところで、頻繁にお話を聞くという機会がありました。最初は長くキャリアもある方なので、教えていただくという形で話をうかがっていたんですが、そのうちに膝や腿を触ってくる。

さらには、当時私は学芸部、学芸課の職員として働いていたんですが、館長から、あなた(A)のためにあらたな課をつくるので、そこに異動しなさい、ついては執務室(他の学芸員も一緒に働いている大部屋)から2階、図書室の奥にある人の出入りがない部屋へデスクを移しなさい、自分が行くときには、かならずその部屋にいるように、そこなら誰にも邪魔されないから、というようなことを執拗に言われました。

そこでしなさいと言われていた仕事も、私が学芸員になるにあたって想定されていた仕事とは大きく異なる、もしくは人が一生かかってもやりきれないであろう課題でしたので、それはできません、2階に異動することもいたしません、とお断りしました。私は学芸課で学芸員の仕事をします、と言いましたところ、館長の態度が豹変しまして、「辞めろ、辞めちまえ、辞めさせてやる」という発言を受けました。

日常的な排除に関しては、先ほども稲葉からありましたように、私と田代学芸員は事業課の会議のなかで決定すべきこと、議論すべきことには、関わることができず、あとになってから知るですとか、まったく蚊帳の外に置かれるといった状態が常態化しています。この件については、もちろん団体交渉でも指摘しているのですが、「わからなかったら聞けばいい」「単なるコミュニケーション不足なのではないか」というように、問題を矮小化しているといいますか、財団はそのような形で問題を処理したいのだな、という印象を受けました。

「他の学芸員にも聞き取り調査をしたが、他の人はそんなことは言っていない」「あなたたちの言っていることは間違いなのではないか」とも言われました。

セクハラに関しても「職員に聞き取りをしたところ、Aさんが館長に対してセクハラをしたと言う者が多くいた」など、セカンドレイプのような発言を団体交渉の場でされたこともありました。

(稲葉)
資料館の組織としては、事業部と管理部がありまして、事業部のなかに社会啓発課と事業課、あと私1人だけの資料管理課があります(稲葉=資料管理課長)。事業課は、ここにいる2人を入れて5人、社会啓発課は3人(1人は事業課兼任)。社会啓発課の課長から、事業課であるAさんに対して、クレームが入る。それは直で言ってくるのではなくて、社会啓発課長から事業課長に入るわけです。

そのクレームを事業課長が事実確認をせずに「社会啓発課長が言っているのだから」ということでAさんを注意する、ということもありました。事実無根ですので、事実ではない、と当然反論するわけですけれども、その反論自体を受けつけない。そんなこともありました。

現在の事業部長と学芸員4人、辞められて今参与という形になっている方、それから運営委員のおひとりが、私と学芸部長の雇い止めを相談する、ということもありました。我々を排除しようとする動きは、私たちが嫌になって辞めるのを待つということも含め、日常的に繰り返されるという状態にあります。

(A)
ハンセン病資料館、重監房資料館、各地の社会交流会館というのは、元々はハンセン病回復者の方が作られた施設で、その人たちがしてきた、されてきたことですとか、「自分たちが生き抜いた証を残す」という理念に基づいているわけで、私たちはその思いを託されて仕事をしているわけです。

本来、厚労省が直接資料館運営に関われればいいのですが、民間委託している。その上で私たちも回復者、入所者、あるいは入所者の全国組織である全療協の意志を継ぐかたちで運営をしているわけです。そこのところがいま、非常におろそかにされていて、どちらかというと日本財団の意向に沿ったかたちで、さらには彼らの意向をうまく実現できるような職員を重用する、それ以外の「これは(設立の理念からすると)おかしいのではないか」と批判する職員を排除する、こういった傾向が年々強まっています。

組合員は地方の社会交流会館にもいます。こうしたことを危惧している学芸員は東京のハンセン病資料館だけではなく、全国にいます。

──3人の方が排除されるようになったきっかけ、原因となるようなできごとというのはあったのでしょうか。何を根拠になど、思い当たることはありますか。

(稲葉)
3人それぞれなんですが、私の場合は館長に嘘を吹き込む職員がいまして、その職員の嘘によって、当時学芸課長だった私と、学芸部長、それから事務局長の3人が異動(左遷)になりました。「あの3人が館長を追い落とそうと画策している」というのが嘘の内容で、それを館長が信じて日本財団にかけ合って、それを受けた日本財団が追放人事をおこなったというのが、おもな経緯です。そこから私は排除の対象になりました。

Aさんは、本人が先ほども話したように館長からのむちゃくちゃな指示を拒んだために、排除の対象になったということです。

(田代)
私の場合、理由はふたつあったと思っています。まず稲葉さんが人事異動となりましたが、この件では、財団から来ていた事務局長も降格という処分を受けています。これはあまりにひどい処分だと思っていました。この点がまずひとつ。

この人事異動は、療養所の全国組織である全療協も非常に大きな問題としてとりあげ、全療協ニュースにも掲載されました。ここでも全療協の事務局長が組織改編の意図(*学芸部を廃して事業部制にしたこと)を日本財団に質しても、明確な答えが返ってこない。私も2009年からこの資料館で学芸員として働いていますが、全療協ニュースに資料館が問題があるとしてとりあげられるという経験は初めてのことです。

当館というのは──学芸員によっても認識は違いますが──ハンセン病回復者、当事者の方々がみずから資料館を作った。その資料館が全療協から信頼感を得られていない状態にあるというのは、これは非常に大きな問題だと思います。

私がしている仕事は、当事者の方々と密に関係をもつという面が非常に大きなウェイトを占めています。そのなかで財団との考え方の違いについて、日頃から意見を言っていたわけですね。そうしたところ、ある時期から情報の共有がされなくなりました。今、稲葉から排除があるという話がありましたが、これは具体的に言うと、情報が共有されないということでもあります。

なにか大事な話合いがあるようなとき、我々3人はあらかじめ排除されていて、決まったことだけが事業課会議で、すでにできあがったもの(決定事項)として伝えられる。そのなかで、私が日頃から担当している当事者の方をお呼びしての講演会、そういったものが別の事業として企画されていたりするわけです。そのことに関して事前の相談もないといった状況です。たしかに(事業決定の)段階は踏んでいるわけですが、そのようなことがあった結果、排除されているというのが私の認識です。

──家族訴訟を受け、来年度から予算も増やして差別偏見の解消を進めていこうとしているなかで、現場にはこういった問題がある。こうした状況については、どう思われますか。

(稲葉)
人が増えて、各地の社会交流会館にも学芸員がつくようになっているんですけれども、受託者側が対応し切れていないということなんだと思います。療養所の予算で社会交流館は建てられていて、運営費も療養所から出ています。ですが、そこに勤めている学芸員の人件費は、資料館を受託した受託者が支払う、という形になっています。そうすると、医療政策支援課と難病対策課とで、予算の出所が違っているといった実態があります。

ここがひとつ問題で、実際に学芸員が仕事をしようとすると、雇用者は日本財団、難病対策課からお金が出ているんだけれども、実際の仕事の指示は誰がしているかというと現場である自治会の指示があり、園の施設で働いているという現実があるわけです。何かあったときに誰が責任を負うのか、あるいは、誰の指示で仕事をしていくべきか、となったときに難しさがあります。

東京へ出張で行く、行かない、特別休暇にしてほしい、というようなことがあっても、それは現場である園の判断を仰ぐのではなくて、受託者の判断を仰がなければならない。そのあたりに仕事のしづらさがあると思います。

家族訴訟の結果を受けて、これからさらに頑張っていきましょうと言っているわけですが、今の体勢で果たしてどれだけの力が入るのか、非常に疑問に思っています。